『大丈夫か?』
その言葉を聞くとピクリと顔つきが変わるのが自分でもわかる。
幾度となく、聞かされたその言葉と突き刺さるような視線。
『こんなヤツをメンバーに入れて大丈夫か?』
『こんなヤツに主役を任せて大丈夫か?』
メンバーの中でも一番年下で、経験も無くて、そんなヤツがいきなりデビューだなんて、正直僕自身が一番驚いていたさ。
だから『大丈夫か?』と聞かれるまでもなく『大丈夫じゃない』不安は僕に大きくのしかかっていく。それは未だに消えることがない。
どんなに努力しても結果がついてこなければ、それは努力とは言えないと僕は知っている。頑張るだけ頑張ったからなんてレベルの自己満足じゃこの世界は許してくれない。そして努力なしで結果オーライなんて、それは宝くじレベルの運の良さに過ぎない。
確実な努力こそが結果を生み出す。その努力を出来るか否か。
「岡田、オマエ大丈夫か?」なになげなく坂本くんが僕に聞く。僕の顔がひきつる。
『こんな過密のスケジュールでやりこなせるのか?大丈夫か?』
確かに今年の夏は僕のスケジュールは例年になく忙しい。映画や舞台、そして夏コンにドラマ、そのままカミコン。ため息をすることでさえはばかれるようなスケジュールは、僕に考える余裕さえ与えない。目の前のスケジュールをこなしていくことで精一杯なときも正直…ある。
いっぱいいっぱいの僕は坂本くんの問いにさえ答えられない。いたずらを見つかった子供が言い訳できないでいるみたいだ。
「岡田なら大丈夫だよ」
僕の代わりに長野くんが明るく答える。
「大丈夫じゃないヤツに、こんなに仕事が来るわけないだろ」
「ま、そりゃそうだ。…あまり無理すんなよ」
坂本くんが真顔で僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「大丈夫か?」
夏コンのリハの最中、森田剛の言葉はいつも突き放すように唐突だ。ついと三宅くんに目で合図を送ったかと思うと二人の立ち位置が変わる。
「剛は岡田の肩の心配をしてるんだよ。左肩、亜脱臼してるんだろ?」
言葉なんて言わなきゃわからないじゃないとばかりに、三宅くんはエンジェルスマイル攻撃を仕掛ける。
僕は下唇をかすかに噛んで、頷く仕草を繰り返す。うまい具合に言葉が見つけ出せない。
「大丈夫なわきゃないだろっ。リハなんだからマジで行くなよ。どうせ怪我するならリハよりも本番だ~っ」
井ノ原くんが大きな口を開けて空気いっぱい吸い込む。どうしてこうも僕の言葉をだれかれ奪ってしまうんだろう。
だけど。
だけど確かにいえるのは、以前とは違う…少しだけ苦笑いできる僕がそこにいた。
可愛い岡田くんかと思いきや、「学校へ行こうSP・トニ線流し」の岡田くんはイノに冷たい。
でも岡田くんの「やればいいじゃん」の言葉はストレートに努力してきた人の率直な想いなんだろうなぁと思ってしまった。