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2004年03月21日

1.始まり

 恋の始まった日なんてそうそう意識するもんじゃない。
 気がついてみたらいつの間にかフォーリンラブ。
 そして恋の終わりは確実にやってきて、記念日のごとくキリよく収まってしまう。
 ま、自然消滅ってこともあるけど、オレに言わせりゃそんなの恋のうちには入らない。

 夜明けだってどこからが夜と朝の境目なんだろう。
 一日の始まりが午前0時の時報とともにやってくるなんて陳腐すぎゃしないだろうか。

 いつだって始まることを願ってた。
 スタートの用意はできていたのに、いつも「よ~い、ゥどん」並のダジャレで、オレは空振りをくらう。

 だから、オレにとっての始まりの記念日は1995年11月1日。
 井ノ原快彦がずっと生きてきて、一番の大切な始まりの日。

 「デビューはその日だけど、V6としてはまだ始まったって感じじゃなかったなぁ」
 うっ、坂本くんはイタイとこついてくるなぁ。
 「始まりって言ってもデビュー前がオレは長いから」大御所の台詞、長野くん。
 「ぷっ、イマドキそんなマジ顔で言うことかよぉ~」ひょひょひょと剛が笑う。
 「自分にとっての始まり…ってそれって生まれた日じゃないの?」と誕生日重視の健らしい。
 「始まりがあれば…終わりもいつかくる」おいおい、なんてこと言うんだよ、岡田はぁ。


 終わりを迎えることがあるにしても、物事はハジマリから始まる。
 だから今は毎日が始まりの日。
 キミと出会うことのできる始まりの日。
 もしかしたら、恋が始まるカモしれない日。 



やっぱり始まりといえば…井ノ原さんですよねぇ。でもやっぱりV6全員を出してみた。(爆)

2004年03月22日

2.夜明け   ~井ノ原快彦

 徹夜したあとの夜明けは嫌いじゃない。
 ましてやそれが仕事とあっては、心地よい疲労感が夜明けの空にすぅーっと溶け込んでいく。

 あ、ウソ。
 仕事開けの夜明けなんて最低。
 眠くて目はしょぼしょぼするし、(細い目がよりいっそう細くなるって剛にからかわれるし)顔もなんだかむくんでる。そして眠気もピークを過ぎるとギンギンに目が冴えて、今度はハイテンションっ !
  
 まったく次の仕事は午前中にはスタジオ入りだぜ。今から帰って何時間眠れるかな。
 こっからだと、家に帰るよりスタジオの方が近いし。でもシャワーは浴びたい。できれば朝飯も。 
 
 迷惑承知で携帯のメモリーから呼び出す番号。
 「あ、オレ、井ノ原だけど、今からそっち行っていいかな?」

 …なぁんて。
 そんな風に言えりゃいいんだけど。夜明けはまだ電話するには早すぎる時間帯。
 
 諦めて自分のマンションに帰って熱いシャワーを浴びる。途端に襲ってくる睡魔。
 腹は減ったけど、今は少しでも睡眠をとりたい。
 ふかふかのベッドに飛び込んで羽毛枕に頬擦りをした途端、携帯のメロディがオレをたたき起こす。

 「オレだけど…今から泊めてよ」ぶっきらぼうな剛の声。
 オレは仕事していたというのに、人の都合はお構いなしかよ。
 「…朝飯、持ってきてくれたらいいよ」

 コンビニのサンドイッチで誤魔化されながらも、そうやって電話してくるあいつに少しの心地よさ。
 こんな夜明けは嫌いじゃない。



ここで井ノ原さん登場。 ちがう、剛つんはそんなキャラじゃねぇぞ。 というか、Vメンの誰もが突然家に押しかけるキャラじゃない。 でもこういうシュチュエーションを書きたかったので、 敢えて剛つんにその役割を託してみた。(爆)

2004年03月24日

3.大丈夫か?   ~岡田准一

 『大丈夫か?』
 その言葉を聞くとピクリと顔つきが変わるのが自分でもわかる。
 幾度となく、聞かされたその言葉と突き刺さるような視線。
 『こんなヤツをメンバーに入れて大丈夫か?』
 『こんなヤツに主役を任せて大丈夫か?』

 メンバーの中でも一番年下で、経験も無くて、そんなヤツがいきなりデビューだなんて、正直僕自身が一番驚いていたさ。
 だから『大丈夫か?』と聞かれるまでもなく『大丈夫じゃない』不安は僕に大きくのしかかっていく。それは未だに消えることがない。
 どんなに努力しても結果がついてこなければ、それは努力とは言えないと僕は知っている。頑張るだけ頑張ったからなんてレベルの自己満足じゃこの世界は許してくれない。そして努力なしで結果オーライなんて、それは宝くじレベルの運の良さに過ぎない。
 確実な努力こそが結果を生み出す。その努力を出来るか否か。

 「岡田、オマエ大丈夫か?」なになげなく坂本くんが僕に聞く。僕の顔がひきつる。

 『こんな過密のスケジュールでやりこなせるのか?大丈夫か?』

 確かに今年の夏は僕のスケジュールは例年になく忙しい。映画や舞台、そして夏コンにドラマ、そのままカミコン。ため息をすることでさえはばかれるようなスケジュールは、僕に考える余裕さえ与えない。目の前のスケジュールをこなしていくことで精一杯なときも正直…ある。

 いっぱいいっぱいの僕は坂本くんの問いにさえ答えられない。いたずらを見つかった子供が言い訳できないでいるみたいだ。
   「岡田なら大丈夫だよ」
 僕の代わりに長野くんが明るく答える。
 「大丈夫じゃないヤツに、こんなに仕事が来るわけないだろ」
 「ま、そりゃそうだ。…あまり無理すんなよ」
 坂本くんが真顔で僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。


 「大丈夫か?」
 夏コンのリハの最中、森田剛の言葉はいつも突き放すように唐突だ。ついと三宅くんに目で合図を送ったかと思うと二人の立ち位置が変わる。
 「剛は岡田の肩の心配をしてるんだよ。左肩、亜脱臼してるんだろ?」
 言葉なんて言わなきゃわからないじゃないとばかりに、三宅くんはエンジェルスマイル攻撃を仕掛ける。
 僕は下唇をかすかに噛んで、頷く仕草を繰り返す。うまい具合に言葉が見つけ出せない。
「大丈夫なわきゃないだろっ。リハなんだからマジで行くなよ。どうせ怪我するならリハよりも本番だ~っ」  

 井ノ原くんが大きな口を開けて空気いっぱい吸い込む。どうしてこうも僕の言葉をだれかれ奪ってしまうんだろう。


 だけど。
 だけど確かにいえるのは、以前とは違う…少しだけ苦笑いできる僕がそこにいた。
 



可愛い岡田くんかと思いきや、「学校へ行こうSP・トニ線流し」の岡田くんはイノに冷たい。
でも岡田くんの「やればいいじゃん」の言葉はストレートに努力してきた人の率直な想いなんだろうなぁと思ってしまった。

2004年03月25日

4.それだけは勘弁してください ~三宅健

 温泉ロケに気をよくしたというか、味をしめた感もある「学校へ行こう」のスタッフと坂本くん。
 ま、確かにあのロケは慰安会を兼ねていたのか、メンバーもスタッフも温泉に浸かって、美味しいモン食べてご機嫌だったよなぁ。

 だけど、ボクの立場も考えてよ。
 温泉に入るとなぜか饒舌にV6の歴史なんて語り始めちゃうんだよ、坂本くんは。
 移動中の車の中でもV6のアルバムを掛けまくるし。恥ずかしいったらありゃしない。

 ロケに参加できなかった剛はさほど羨ましがるふうでもないけど、井ノ原くんは温泉ロケに大騒ぎしてるよ。
 「く~っっっ、いいなぁ。オレも行きたかったよぉ~」
 「ホントよかったぜぇ、乳頭温泉はぁ。こうキメの細かい泉質でさぁ、お肌がツルっツル」
 坂本くんは自慢げに話すけど、あの豪雪忘れちゃったの?
 「ニュウトォ~…おひょひょひょ名前もナマメカシくていいなぁ」
 このエロッチは何考えてんだよっ。

 長野くんは罰ゲームに(ホントこれが容赦ないゲームなんだよね)頭痛めてるし、剛はまるっきり無関心。
 岡田は…あまりいい思い出のロケじゃないらしい。苦笑いしてる。(ちょっとこのボクも岡田には同情気味だ)

 「あのぉ…結構温泉ロケは評判がよかったので、またやろうかという話もあるんですけど…」
 そこにボクらのマネージャーのムトウくんが話を割ってくる。
 評判よかった…って単にハダカが受けたんじゃないの?とボクは思う。


 「えっ? マジ?」
 坂本くんと井ノ原くんはおおはしゃぎ。
 「で、また女優さんからの逆指名が入ってるんですけど…」
 ムトウくんは遠慮がちに坂本くんの顔色を伺ってるけど、坂本くんは上機嫌。
 「え~っ、いいんじゃないの? また岡田にはいい経験をつんでもらえばぁ?」
 人事だと思って坂本くんは岡田にからかうような視線を送る。

 「あ、今度の逆指名は岡田さんじゃないんです」
 「もしかしてオレ?」
 イノッチが細い目を見開いて、嬉しそうに笑ってる。
 「いえ…井ノ原さんじゃなくて…あの、坂本さん…に…」
 今度は坂本くんが目を見開いてる。
 「女優って誰だよ?」
 今まで無関心だった剛がムトウくんに投げかける。
 「…ええ、あの、大御所の…」
 少々名前を出すのははばかれたのか、ムトウくんは坂本くんの耳元で囁いた。

 「ひ、ひぇ~っ。そ、それだけは勘弁してください~っ! 」
 坂本くんの通りのよい声はきっと楽屋廊下まで響いたに違いない。

 その女優が誰なのか、ボクには未だ謎である。



本当は坂本くんで別の物語を考えていたのですが、「学校へ行こうSP」温泉宿ロケが あまりにも面白くてこんな話になっちゃいました。

2004年03月26日

5.366   ~三宅健

 2003年7月の終わり、久々に会った森田剛は、いきなりボク三宅健に何かを差し出した。
 それは『日本の名湯・登別カルルス』と書かれた入浴剤、それもたった一袋。

 「…やるよ」
 ボクと剛はジュニアからの長年の付き合いだけど、ときどき剛が理解できない。
 「遅れたけど、オマエの誕生日プレゼント」
 「へ?」
 ボクは目が点になる。おまけにその入浴剤の袋には『試供品』の文字がデカデカとプリントされていた。でも何かしら、剛のマジな目つきに気おされて、その袋を受け取ってしまった。

 でもボクへの誕生日プレゼントっていうのならもうちょっとマシなものくれない? 一応ボクたち売れてるアイドルでしょ? 剛への御礼(…ってそんなものを試供品に対して言うべきなんだろうか?)も言わないまま、ボクはその試供品の入浴剤を無造作に鞄に放り込んだ。


   その日仕事を終え帰宅してみると、なにやら玄関にボク宛の小包が届いていた。差出人の名前はない。
 開けてみるとそこには汚い字で『遅れたけどハッピーバースディ おフロ一年分』と書かれたカードが入っていて、見ると彩り鮮やかな、そしていろんな種類の入浴剤がいっぱい入っていた。

 入浴剤で今日の剛を思い出す。うん、確かにこの汚い字は森田剛のものだ。
 へぇ、ボクのお風呂好きを知って入浴剤を贈ってくれたんだ。

 入浴剤はどこかの輸入雑貨店から購入したものなんだろうか。英語にフランス語、はたまたインドなのか象のイラストのついたものなど、丸いビー玉のような形のものやスティック状のものなど、どれもひとつひとつが違う色に違う形で香りまでいろんな種類があった。

 ボクはその入浴剤を選んでいる剛を想像しながら(きっとぶっきらぼうで店員さんも困ったに違いない)、そのひとつひとつを並べてみる。リビングのフローリングの床はすぐにそれらの入浴剤でいっぱいになった。

 しかし『おフロ一年分』って言う言い回しはあんまりだよね。まぁ、剛らしいというか。
 一体この入浴剤、何個あるんだろ?イチ、ニ、サン、…ひとつひとつを数えてみる。

 そして気づいた。
 ボクはあわてて今日もらった『登別カルルス』を鞄から出し、並べている入浴剤の最後に付け足す。
 「…これでサンビャク…ロクジュウ…ロク」
 366個の入浴剤。

 来年2004年は閏年。
 『登別カルルス』は『おフロ一年分』に一日足りなかったことに気づいた剛からのプレゼント。

 今夜のお風呂の入浴剤は『登別カルルス』に決まりだな。




366というお題に悩みましたねぇ。最初はロッカーの
キーナンバーにしようかなとも思いましたが、
366の必然性がそれにはないとボツ。(^_^;)
閏年の366日じゃ平凡だよねぇというので366個と
いう表現にしてみました。

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