2003年7月の終わり、久々に会った森田剛は、いきなりボク三宅健に何かを差し出した。
それは『日本の名湯・登別カルルス』と書かれた入浴剤、それもたった一袋。
「…やるよ」
ボクと剛はジュニアからの長年の付き合いだけど、ときどき剛が理解できない。
「遅れたけど、オマエの誕生日プレゼント」
「へ?」
ボクは目が点になる。おまけにその入浴剤の袋には『試供品』の文字がデカデカとプリントされていた。でも何かしら、剛のマジな目つきに気おされて、その袋を受け取ってしまった。
でもボクへの誕生日プレゼントっていうのならもうちょっとマシなものくれない? 一応ボクたち売れてるアイドルでしょ? 剛への御礼(…ってそんなものを試供品に対して言うべきなんだろうか?)も言わないまま、ボクはその試供品の入浴剤を無造作に鞄に放り込んだ。
その日仕事を終え帰宅してみると、なにやら玄関にボク宛の小包が届いていた。差出人の名前はない。
開けてみるとそこには汚い字で『遅れたけどハッピーバースディ おフロ一年分』と書かれたカードが入っていて、見ると彩り鮮やかな、そしていろんな種類の入浴剤がいっぱい入っていた。
入浴剤で今日の剛を思い出す。うん、確かにこの汚い字は森田剛のものだ。
へぇ、ボクのお風呂好きを知って入浴剤を贈ってくれたんだ。
入浴剤はどこかの輸入雑貨店から購入したものなんだろうか。英語にフランス語、はたまたインドなのか象のイラストのついたものなど、丸いビー玉のような形のものやスティック状のものなど、どれもひとつひとつが違う色に違う形で香りまでいろんな種類があった。
ボクはその入浴剤を選んでいる剛を想像しながら(きっとぶっきらぼうで店員さんも困ったに違いない)、そのひとつひとつを並べてみる。リビングのフローリングの床はすぐにそれらの入浴剤でいっぱいになった。
しかし『おフロ一年分』って言う言い回しはあんまりだよね。まぁ、剛らしいというか。
一体この入浴剤、何個あるんだろ?イチ、ニ、サン、…ひとつひとつを数えてみる。
そして気づいた。
ボクはあわてて今日もらった『登別カルルス』を鞄から出し、並べている入浴剤の最後に付け足す。
「…これでサンビャク…ロクジュウ…ロク」
366個の入浴剤。
来年2004年は閏年。
『登別カルルス』は『おフロ一年分』に一日足りなかったことに気づいた剛からのプレゼント。
今夜のお風呂の入浴剤は『登別カルルス』に決まりだな。
366というお題に悩みましたねぇ。最初はロッカーの
キーナンバーにしようかなとも思いましたが、
366の必然性がそれにはないとボツ。(^_^;)
閏年の366日じゃ平凡だよねぇというので366個と
いう表現にしてみました。